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【最高裁】令状のないGPS捜査は違法

最高裁は、2017年3月15日、令状なくして行われたGPS捜査は違法であるとの判決を出しました。

【事案】
被告人が複数の共犯者と共に犯したと疑われていた窃盗事件に関し,組織性の有無,程度や組織内における被告人の役割を含む犯行の全容を解明するための捜査の一環として,平成25年5月23日頃から同年12月4日頃までの約6か月半の間,被告人,共犯者のほか,被告人の知人女性も使用する蓋然性があった自動車等合計19台に,同人らの承諾なく,かつ,令状を取得することなくGPS端末を取り付けた上,その所在を検索して移動状況を把握するという方法によりGPS捜査が実施された(以下,この捜査を「本件GPS捜査」という。)。

【第1審及び原審の判断の要旨】
(1) 第1審裁判所(大阪地裁)は,本件GPS捜査は検証の性質を有する強制の処分(刑訴法197条1項ただし書)に当たり,検証許可状を取得することなく行われた本件GPS捜査には重大な違法がある旨の判断を示した上,本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定したが,その余の証拠に基づき被告人を有罪と認定した。

(2) これに対し,原判決(大阪高裁)は,本件GPS捜査により取得可能な情報はGPS端末を取り付けた車両の所在位置に限られるなどプライバシーの侵害の程度は必ずしも大きいものではなかったというべき事情があること,被告人らの行動確認を行っていく上で,尾行や張り込みと併せて本件GPS捜査を実施する必要性が認められる状況にあったこと,本件GPS捜査が強制の処分に当たり,無令状でこれを行った点において違法と解する余地がないわけではないとしても,令状発付の実体的要件は満たしていたと考え得ること,本件GPS捜査が行われていた頃までに,これを強制の処分と解する司法判断が示されたり,定着したりしていたわけではなく,その実施に当たり,警察官らにおいて令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとまでは認め難いこと,また,GPS捜査が強制処分法定主義に反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できないことなどを理由に,本件GPS捜査に重大な違法があったとはいえないと説示して,第1審判決が証拠能力を否定しなかったその余の証拠についてその証拠能力を否定せず,被告人の控訴を棄却した。

【最高裁判所の判断】
最高裁は、原判決(大阪高裁)の前記2(2)の説示に係る判断は是認できないとして、令状なくして行われたGPS捜査は違法であるとした

(1) GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである

(2) 憲法35条,「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ,この規定の保障対象には,「住居,書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。

そうすると,前記のとおり,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害する
ものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる
(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。

(3) 原判決は,GPS捜査について,令状発付の可能性に触れつつ,強制処分法定主義に反し令状の有無を問わず適法に実施し得ないものと解することも到底できないと説示しているところ,捜査及び令状発付の実務への影響に鑑み,この点についても検討する。

GPS捜査は,情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の「検証」と同様の性質を有するものの,対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において,「検証」では捉えきれない性質を有することも否定し難い。

仮に,検証許可状の発付を受け,あるいはそれと併せて捜索許可状の発付を受けて行うとしても,GPS捜査は,GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うものであって,GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず,裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある

さらに,GPS捜査は,被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく,事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については,手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項,110条),他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても,これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは,適正手続の保障という観点から問題が残る。

これらの問題を解消するための手段として,一般的には,実施可能期間の限定,第三者の立会い,事後の通知等様々なものが考えられるところ,捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは,刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし,第一次的には立法府に委ねられていると解される。

仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば,以上のような問題を解消するため,裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが,事案ごとに,令状請求の審査を担当する裁判官の判断により,多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは,「強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない」と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない。

以上のとおり,GPS捜査について,刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある

GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば,その特質に着目して憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。

(4) 以上と異なる前記2(2)の説示に係る原判断は,憲法及び刑訴法の解釈適用を誤っており,是認できない。

以上のように、令状なきGPS捜査は違法であり、今後GPS捜査を行うのであれば、立法的措置が講じられることが望ましいと判示した。

もっとも、本件の結論に関しては、

「しかしながら,本件GPS捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接な関連性を有する証拠の証拠能力を否定する一方で,その余の証拠につき,同捜査に密接に関連するとまでは認められないとして証拠能力を肯定し,これに基づき被告人を有罪と認定した第1審判決は正当であり,第1審判決を維持した原判決の結論に誤りはないから,原判決の前記法令の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼすものではないことが明らかである。」

として、原判決を維持した。

【コメント】
本判決は、令状なきGPS捜査は違法であるとしつつ、GPS捜査の特質からすれば、現在法定されている令状によって行うことには疑義があるから、憲法及び刑事訴訟法の諸原則に適合する立法的な措置を講じることが望ましいとした点に特色があると言えます。

【関連記事】
2017年3月15日17時54分 朝日新聞デジタル

・・・・以下引用・・・・・・・・・・・・

 裁判所の令状なく捜査対象者の車などにGPS(全地球測位システム)端末を取り付ける捜査について、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は15日、「令状が必要な『強制捜査』にあたり、捜査は違法だった」との初めての判断を示した。判決は「立法で対処することが望ましい」とも言及した。

 GPS捜査について、警察庁は2006年6月に各都道府県警に通達したマニュアルで、令状なしでも実施できる任意捜査と位置づけ、捜査書類に残さないよう指示していた。昨秋からは令状を得て実施するよう事実上方針転換しているが、各地で争われた裁判で、令状が必要だったかについては判断が分かれていた。

 今回判決が言い渡されたのは、車を使った侵入盗などを繰り返したとして窃盗罪などに問われた男性被告(45)の上告審。大阪府警が令状を取らずに被告らの車やバイクにGPS端末を装着して捜査した。一審・大阪地裁は「令状なく実施したのは違法」と証拠の一部を排除しつつ、他の証拠で懲役5年6カ月の有罪に。二審・大阪高裁は令状が必要だったか明確に判断しなかった。

■新技術活用の根拠、立法促す

 GPS捜査は、違法な高速走行などで尾行逃れを繰り返す相手への対策として、有効性が高かった。犯罪捜査には一定のプライバシー侵害がつきもので、全く許されないわけではない。新しい技術を使って捜査機関が情報を得ることは、自白重視から客観証拠重視へと変わりつつある刑事裁判の流れにもかなう。

 それでも最高裁大法廷は、位置情報を網羅的に把握できるGPS技術の特性を重視。法律に根拠がなければ侵害できない「私的領域」を従前より広くとらえる踏み込んだ憲法解釈を示して立法を促し、捜査機関の乱用に警鐘を鳴らした。

 GPSに限らず、メールや防犯カメラ映像など、技術の進歩で個人が様々なデータを残すことは避けられない。憲法で保障された人権を守りつつ、捜査機関は明文化されたルールのもとで情報を扱うことが求められる。(千葉雄高)

■判決のポイント

・GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握するもので、プライバシーを侵害する。公権力による私的領域への侵入というべきだ

・私的領域への侵入は、憲法35条が保障する「令状なしに家宅捜索や所持品の押収をされない権利」を侵害する。GPS捜査は、令状が必要な強制捜査といえる

・車両や罪名を特定しただけでは、容疑と関係ない行き過ぎた行動把握を抑制できない。令状を出すには疑義があり、GPS捜査の特質に合わせた立法が望ましい

■岡部喜代子(学者出身)、大谷剛彦(裁判官出身)、池上政幸(検察官出身)の3裁判官による補足意見

 GPS捜査の法律ができるまでには一定の時間がかかるが、その間GPS捜査が全く否定されるべきではない。ただ、認めるとしてもごく限られた極めて重大な犯罪捜査で、どうしても必要な場合となる。裁判官がGPS捜査を認める令状を出すのは特別な事情がある場合に限られ、極めて慎重な判断が求められる。

・・・引用以上・・・・・・・・・

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