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別居期間7年でも離婚請求を認めなかった裁判例【東京高裁平30.12.5】(3)

別居期間が7年におよぶ場合であっても、離婚請求者(夫)に婚姻関係維持の努力や別居中の多方配偶者への配慮を怠った事情があるときには、婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえず、信義誠実の原則に照らしても離婚請求が許されないとした事例(3)
【東京高裁平30(ネ)3466号、平成30・12・5民11部判決、取消・請求棄却】(判例時報No.2427 2020年2月1日号)

本件東京高裁判決は、以下のように判示し、夫Xからの離婚請求を認めず妻が逆転勝訴しました。

「婚姻も契約の一種であり、その一方的解除原因も法定されている(民法770条)が、解除原因(婚姻を継続し難い重大な事由)の存否の判断に当たっては、婚姻の特殊性を考慮しなければならない。

殊に、婚姻により配偶者の一方が収入のない家事専従者となる場合には、収入を相手方配偶者に依存し、職業的経験がないまま加齢を重ねて収入獲得能力が減衰していくため、離婚が認められて相手方配偶者が婚姻費用分担義務(民法752条)を負わない状態に放り出されると、経済的苦境に陥ることが多い。

また、未成熟の子の監護を家事専従者が負う場合には、子も経済的窮境に陥ることが多い。

一般に、夫婦の性格の不一致等により婚姻関係が危うくなった場合においても、離婚を求める配偶者は、まず、話し合いその他の方法により婚姻関係を維持するように努力すべきであるが、家事専従者側が離婚に反対し、かつ、家事専従者側に婚姻の破綻についての有責事由がない場合には、離婚を求める配偶者にはこのような努力がより一層強く求められているというべきである。

また、離婚を求める配偶者は、離婚係争中も、家事専従者側や子を精神的苦痛に追いやったり、経済的リスクの中に放り出したりしないように配慮していくべきである。

ところで、第1審原告は、さしたる離婚の原因となるべき事実もないのに(第1審原告が離婚原因として主張する事実は、いずれも証明がないか、婚姻の継続を困難にする原因とはなり得ないものにすぎない。)、単身赴任中に何の前触れもなく突然電話で離婚の話を切り出し、その後は第1審被告との連絡・接触を極力避け、婚姻関係についてのまともな話し合いを一度もしていない。

これは、弁護士のアドバイスにより、別居を長期間継続すれば必ず裁判離婚できると考えて、話し合いを一切拒否しているものと推定される。

離婚請求者側が婚姻関係維持の努力や別居中の家事専業者側への配慮を怠るという本件のような場合においては、別居期間が長期化したとしても、ただちに婚姻を継続し難い重大な事由があると判断することは困難である。

第1審被告が話し合いを望んだがかなわなかったとして離婚を希望する場合には本件のような別居の事実は婚姻を継続し難い重大な事由になり得るが、話し合いを拒絶する第1審原告が離婚を希望する場合には本件のような別居の事実が婚姻を継続し難い重大な事由に当たるというには無理がある。

したがって、婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえないから、第1審原告の離婚請求は理由がない。」

とした。

さらに、以下のとおり、夫Xによる離婚請求は信義則違反にあたり許されないとも認定した。

離婚請求が信義誠実の原則に反しないかどうかを判断するには
①離婚請求者の離婚原因発生についての寄与の有無、態様、程度、
②相手方配偶者の婚姻継続意思及び離婚請求者に対する感情、
③離婚を認めた場合の相手方配偶者の精神的、社会的、経済的状態及び夫婦間の子の監護・教育・福祉の状況、
④別居後に形成された生活関係、
⑤時の経過がこれらの諸事情に与える影響

などを考慮すべきである
(有責配偶者からの離婚請求についての最高裁昭和62年9月2日大法廷判決の説示は、有責配偶者の主張がない場合においても、信義誠実の原則の適用一般に通用する考え方である。)。

第1審原告代理人(当時)による「別居が一定期間継続した後に行われる離婚の訴訟では日本の法律のもとでは離婚が認められてしまう」という極端な破綻主義的見解(有責配偶者からの請求でない限り、他にどのような事情があろうと、別居期間がある程度継続すれば必ず離婚請求が認容されるというもの)は、当裁判所の採用するところではない。

婚姻を継続し難い重大な事由(話し合いを一切拒絶する第1審原告による、妻、子ら、病親を一方的に放置したままの7年以上の別居)の発生原因は、専ら第1審原告の側にあることは明らかである。

他方、第1審被告は、非常に強い婚姻継続意思を有し続けており、第1審原告に対しては自宅に戻って二女と同居してほしいという感情を抱いている。

離婚を認めた場合には、第1審原告の婚姻費用分担義務が消滅する。

専業主婦として婚姻し、職業経験に乏しいまま加齢して収入獲得能力が減衰し、第1審原告の不在という環境下で亡A及び子2人の面倒を一人で見てきたことを原因とする肉体的精神的負担によるとみられる健康状態の悪化に直面している第1審被告は、離婚を認めた場合には、第1審原告の婚姻費用分担義務の消滅と財産分与を原因としてマンションという居住環境を失うことにより、精神的苦境及び経済的窮境に陥るものと認められる。

二女もまた高校生であり、第1審原告が相応の養育費を負担したとしても、第1審被告が精神的苦境及び経済的窮境に陥ることに伴い、二女の監護・教育・福祉に悪影響が及ぶことは必至である。

他方、これらの第1審被告及び二女に与える悪影響を、時の経過が軽減ないし解消するような状況は、みられない。

第1審原告は、婚姻関係の危機を作出したという点において、有責配偶者に準ずるような立場にあるという点も考慮すべきである。

そして、本件の事実関係の下においては、亡Aと第1審被告との養子縁組の届出が第1審原告の同意を得ないまま行われたことは、第1審原告が亡A及び第1審被告との連絡を絶つという姿勢をとっていたことにも原因があるのであって、第1審被告側の信義誠実義務の原則に反する事情として評価することは、不適当である。

同様に、第1審原告に知らせないまま亡Aの生命保険金受取人が第1審原告から子らに変更されたこと及び第1審被告が亡Aから実家不動産の売却余剰金の贈与を受けたことを、第1審被告側の信義誠実の原則に反する事情として評価することも、不適当である。

以上の点を総合すると、本件離婚請求を認容して第1審原告を婚姻費用分担義務から解放することは正義に反するものであり、第1審原告の離婚請求は信義誠実の原則に反するものとして許されない。

第1審原告は、今後も引き続き第1審被告に対する婚姻費用分担義務を負い、将来の退職金や年金の一部も婚姻費用の原資として第1審被告に給付していくべきであって、同居、協力の義務も果たしていくべきである。

このように判示しました。

【コメント】
本件東京高裁判決は以下のような特徴があり、今後離婚事案の結果を見通すうえでも参考になると言えます。

1 極端な破綻主義的見解は採用しないと明言している。
  
  東京高裁は、「有責配偶者からの請求でない限り、他にどのような事情があろうと、別居期間がある程度継続すれば必ず離婚請求が認容される」という「極端な破綻主義的見解」は採用しないことを明言しています。

2 「婚姻関係維持の努力」「別居中の家事専業者側への配慮」を怠った夫を非難している。

  東京高裁は、特に家事専業者(専業主婦)や未成熟の子がいる場合においては、婚姻関係を維持するための努力や別居中の家事専業者側への配慮が欠かせない旨明示しています。
そして夫がそれらを怠り、話し合いにも一切応じなかった本件では、別居が長期であっても「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとは言えないとしています。

3 離婚して婚姻費用が支払われなくなる場合の家事専業者の窮境について具体的に説明している。

  東京高裁は、離婚を認めた場合に家事専業者(専業主婦)が苦境に陥る原因について、

「専業主婦として婚姻し、職業経験に乏しいまま加齢を重ねて収入獲得能力が減衰していくため、離婚が認められて相手方配偶者が婚姻費用分担義務を負わない状態に放り出されると、経済的苦境に陥ることが多い」

として、専業主婦の特殊性について具体的に判示しており参考となる。

4 離婚係争中であっても、家事専業者や子らが精神的苦痛や経済的苦境に陥らないよう配慮すべき義務を明記。
  
  夫は、調停で決められた婚姻費用はきちんと支払っていたようですが、それだけでは足りないとの判断のようです。

5 婚姻関係の危機を作出したという点において「有責配偶者に準ずるような立場」である夫からの離婚請求は信義則違反であるとした。

以上のように、別居期間が長期間に及ぶ事案であっても、離婚請求者側からの誠実な対応が見られない場合には離婚請求が認められない場合があります。

ですから、「別居期間が●年を超えれば離婚できる」といった安易な考え方は危険です。

一方で、原審は同じ事案について別居期間の長さを主な理由として離婚を認めていました。

このように、判断する裁判官によっても判断が分かれることもありますので、離婚が認められるかどうかの見通しを立てるのは難しいこともあります。

そのような場合には、なるべく有利な内容で和解離婚することも大いに検討の余地があると思います。
どのような内容で和解するかについてはさまざまな事情を考慮してケースバイケースで判断する必要があります。

ネット情報などをうのみにせずに、離婚に関しては弁護士にご相談いただければと思います。

愛知市民法律事務所
弁護士 榊原真実
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