個人のお客様

別居の際の預金の持ち出しが違法になるか

夫婦が別居をする際に、夫婦の一方が、もう一方の名義の預金通帳などを持ち出して預金から金を下ろして生活費などに使う場合があります。

このような場合に、名義人である側から、「違法な行為だ」として、損害賠償請求などがなされる場合があります。

この点、裁判例では、準共有あるいは財産分与として認められる蓋然性のある範囲での持ち出しは、違法ではないとされています。

参考裁判例1 
東京地裁平成4年8月26日判決
(事案)
妻が夫に無断で家を出て別居している。妻は、夫名義の国債、ゴルフ会員権、現金を持ち出して消費した。

(判旨)
債券は、妻と夫の婚姻中に形成された財産であると認められるところ、妻は、婚姻中専業主婦で収入を得ておらず、一家の生活費等は専ら夫の収入に依存していたと認められるので、右債券類は、婚姻中の夫の収入を原資として購入されたものということができる。

ところで、民法762条1項によれば、婚姻中一方の名で得た財産はその特有財産であるとされているが、夫婦の一方が婚姻中に他方の協力の下に稼働して得た収入で取得した財産は、実質的には夫婦の共有財産であって、性質上特に一方のみが管理するような財産を除いては、婚姻係属中は夫婦共同で右財産を管理するのが通常であり、婚姻関係が破綻して離婚に至った場合には、その実質的共有関係を清算するためには、財産分与が予定されているなどの事実を考慮すると、婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居を決意して家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とはならないものと解するのが相当である。

なお、妻と夫の夫婦関係は破綻し、離婚と財産分与を求める訴訟が係属しているのであるから、夫婦の実質的共有財産であるゴルフ場会員権の最終的な帰属は、財産分与の際に決すべきものである。

妻が財産を持ち出した行為には違法性がなく、不法行為は成立しないとして、夫から妻に対する損害賠償請求を棄却した。

参考裁判例2
横浜地裁昭和52年3月24日判決(判例時報867号87頁)
(事案)
妻と夫は、ともに土建関係の寮に住み込んで稼働し、夫の収入は全て妻に交付し、妻が二人の収入を管理して、夫名義の口座に預金を貯めた。収入は夫の方が多く、収入の差は著しかった。妻が家事・育児を担っていた。
夫名義の預金の額は約300万円であったところ、妻が家を出て別居をするに際し、150万円を妻名義に変えて持ち出した。

(判旨)
同居中に夫名義の口座に預け入れた合計金300万円は、夫と妻の共有に属し、その各持分は、民法250条により各2分の1であったと推定されることになる

このような場合には、この持分はその財産の取得に対する寄与の割合によって定まると解されるところ、寄与は稼働により収入を得ることに限られず、家事及び育児等も含まれると解すべきであるから、夫と妻の収入の格差は、右推定を覆すに足りない。

夫は、夫名義の各預金債権を夫の特有財産として取得したとしても、妻との関係では、これにより、本件300万円中妻の2分の1の持分を原告の名において管理するに至ったに過ぎず、さらに、貯金は利殖等のほか金銭の保管の方法としてなされるものであり、本件においてはまさにこの方法としてなされたものであり、金銭は没個性的なものであって、預金債権も又個性的色彩の乏しいものであるから、第三者との関係においてはともかく、妻、夫間においては、本件300万円が右預金債権にいわば変形しているというべきであって、妻は、右預金債権についても、夫に対し、準共有者としての二分の一の持分を主張しうる筋合であるといわざるをえない

として、夫から妻に対する損害賠償請求を棄却した。

上へ戻る