相続法改正後の自筆証書遺言と公正証書遺言の比較
1 自筆証書遺言についての改正点
相続に関する法律が改正され、自筆証書遺言(自分で作成する遺言書)について以下のとおり変更され、段階的に施行されています。
①遺言書のうち、財産目録についてはパソコンで作成可能になりました(2019年1月~)。
②自筆証書遺言を「遺言書保管所」(法務局)に預けることができるようになります(2020年7月~)
2 公正証書遺言とは
「公正証書遺言」とは、公証役場という役場において、証人2名立ち会いのもと、「公証人」に作成してもらい、保管してもらう遺言書です。
遺言者は、原則として公証役場に出向き、公証人の面前で、遺言書の内容を述べ(「口授(くじゅ)」)、それに基づき作成した遺言書を「公正証書遺言」として作成、保管します。
3 相続法改正後の自筆証書遺言(遺言書保管所利用)と公正証書遺言の比較
では、相続法改正後の自筆証書遺言(遺言書保管所を利用する場合)と、公正証書遺言を比較してみましょう。
(1)手軽さ
①自筆証書遺言
○自宅等でいつでも一人で作成可能という意味では手軽。
△ただし、全て自分で(※)方式間違いがないように注意して作成する必要がある。(※人に相談しながら作成してももちろんよいが、その際には内容が他にもれる恐れがない人に相談する必要がある。)
△財産目録をパソコンでなく手書きする場合は、手書きの負担がある。
△財産目録をパソコンで作成する場合、自分でできない場合には知人や専門家等に頼む必要がある。
②公正証書遺言
△原則として公証役場に日時を予約して出向く必要がある。
△証人2名を用意する必要がある。
△戸籍謄本、不動産の固定資産税評価証明書、不動産の登記簿謄本等を事前に準備する必要がある。
(○公正証書遺言作成を弁護士等に依頼すれば、証人の用意や戸籍謄本等の必要書類の準備を全て弁護士にやってもらうことが可能)
△遺言書保管所に預ける場合には、遺言者自らが法務局に出向く必要がある。
(2)費用
①自筆証書遺言
○自分で作成する分には特に費用は掛からない。
△専門家にパソコンで財産目録の作成を依頼する場合は費用がかかる。
②公正証書遺言
△遺産の額に応じて公証人に支払う手数料がかかる。
△遺言書の作成を専門家に依頼する場合公証人手数料とは別に費用がかかる。
(3)形式的間違いにより無効になる可能性
①自筆証書遺言
×法律で定められた方式(日付記入、署名、押印等)とおりに作成しないと形式的間違いとして無効になる可能性がある。
○ただし、遺言書保管所を利用する場合に、預ける際に形式的間違いがないかどうかも確認してもらえるので、形式的間違いの可能性は低くなる。
②公正証書遺言
○公証人が作成するので、形式的間違いは起こらない。
(4)遺言能力について後日争われたり無効になる可能性
遺言能力とは、遺言者が遺言書の内容や遺言書によって生じる法的結果について理解し、判断できる能力を指します。
遺言書が形式的間違いなく作成されていても、認知症等によって遺言書作成時に遺言者に遺言能力がなければ遺言書は無効となります。
①自筆証書遺言
△遺言書作成時の状況が分からないため、後日、一部の相続人から、「遺言者は遺言書作成当時、認知症だったので、遺言書の内容を理解していなかったから、遺言能力はなかった。」等と主張される可能性が否定できない。
○もっとも、遺言書保管所を利用する場合には、遺言書保管所にわざわざ本人が出向いて預けたという事実を考慮して自筆証書遺言を有効と認める方向に働く可能性もある(私見)。
②公正証書遺言
○公証人が遺言者の意向を確認しながら作成することになっているので、後日遺言能力について争われる可能性は相対的に低くなるとされている。(但し、争われる可能性はあり、公正証書遺言であっても遺言能力がないとして無効とされた例もある。)
(5)変造・紛失や死後遺言書が見つけてもらえない恐れ
①自筆証書遺言(遺言書保管所利用) ×(恐れは低い)
②公正証書遺言 ×(恐れは低い)
今回新設された遺言書保管所を利用すれば、自筆証書遺言であっても変造・紛失や、死後遺言書が見つけてもらえない恐れはほとんどなくなった。
公正証書遺言もそれらの恐れは低い。
もっとも、遺言書保管所も公証役場も、遺言者が亡くなれば自動的に遺言書の存在を遺族(相続人)に知らせてくれるわけではない。
遺言者が亡くなった後、相続人は、遺言書保管所(法務局)や公証役場に対し、遺言書が保管されていないかどうか検索をかける必要がある。
(6)家庭裁判所における検認手続の要否
①自筆証書遺言(遺言書保管所利用) ×(不要)
※遺言書保管所を利用しない場合は、従前どおり検認手続が必要。
②公正証書遺言 ×(不要)
4 結論
このように、自筆証書遺言と公正証書遺言にはメリットデメリットがありますが、今回の自筆証書遺言に関する改正によって、自筆証書遺言も利用しやすくなると思われます。
もっとも、死後、残された相続人同士で紛争となることを防ぐには、形式面や遺言能力、作成のしやすさという面だけでなく、遺言書の内容面において、遺留分に配慮したり、遺言執行者を指定したり、特別受益として扱われないよう配慮する文言を入れたりする必要があります。
これらの遺言書の内容面における配慮が十分でない場合、どんなに不備のない遺言書を作成しておいたとしても、結局死後相続人間でもめる可能性があります。
したがって、遺言書作成の際には、弁護士に一度相談されることをおすすめします。
愛知市民法律事務所
弁護士 榊原真実