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特別受益(生計の資本としての贈与)に当たる場合とは

遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判、遺留分減殺請求訴訟等で、一部の相続人から、別の相続人に対し、

「相続人〇〇は生前に被相続人から生前贈与を受けていた」と主張がなされることがあります。

すなわち、「特別受益」の主張です。

遺産分割や遺留分減殺請求の事案においては、一部の相続人が「特別受益」に該当するような生前贈与や遺贈を受けていたと認定される場合には、その贈与を受けた相続人は、その贈与を受けた分を一旦相続財産に戻す形にしてから各相続人への配当を計算することになっています。

どういった場合が特別受益に当たるかというのはよく議論になるところです。

特別受益については民法903条に規定がありますが、

「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは」

と規定しているだけで、「生計の資本としての贈与」とはどのような場合を指すのか、必ずしも明らかでないためです。

「生計の資本としての贈与」とは、生計の基礎として役立つような財産上の給付を言うとされています。

贈与の額、趣旨からみて「相続分の前渡し」と言えるような高額の贈与なのかどうか がポイントとなります。

「生計の資本としての贈与」として特別受益が認定される例としては以下のようなものが挙げられます。

・居住用の不動産の贈与

・居住用不動産の取得のための金銭の贈与

・営業資金の贈与

・借地権の贈与

・月々の多額の送金
(東京家裁審判平成21年1月30日
被相続人の口座から相続人に1カ月に2万~25万円の送金がなされていた場合に、1カ月10万円を超える部分は生計の資本としての贈与に当たり、1カ月10万円に満たない送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり、生計の資本としての贈与には当たらない)

・相続人の債務を被相続人が肩代わりして支払った場合に、被相続人が求償権を放棄したとみられる場合

・あまりに多額の生命保険
(他の相続人との間に生じる不公平があまりに大きくなってしまうような場合、例えば相続財産の総額が1億円で、一部の相続人が取得した生命保険金も1億円であった場合、相続財産の総額が8400万円で、生命保険金額が5100万円であった場合等は認められています)

逆に「生計の資本としての贈与」に当たらない とされるのは以下のようなものです。

・遊興費として使うための金銭の贈与

・扶養義務としての援助

・新築祝い、入学祝いなど、親としての通常の援助の範囲内でなされたお祝いのための贈与

・精神的要因又は身体的要因などにより稼働できない子に対する扶養義務に基づく援助

・生命保険金(他の相続人との間に生じる不公平があまりに大きい結果とならない程度の額。)

実務では、「相続分の前渡し」といえるほど大きな額かどうか、という「額」「程度」が重視されているように思います。

明確な基準があるとは言いがたいため、同じ争点に対しても裁判官によって結論が異なることもあります。

あまりに些細な贈与を細かく列挙して挙げるだけでは、成果につながりませんので、戦略的に特別受益の主張をする必要があります。

一方、相手方から特別受益だと指摘されている場合には、きちんと反論をしていく必要があります。

いずれにしても特別受益の争点があるケースでは弁護士にご相談されることをお勧めします。

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