東京高裁H30.5.23判決 放置自転車回収販売事業のフランチャイズ契約の勧誘が故意による詐欺に当たるとし、過失相殺を否定した事例。
悪質商法被害 裁判例 (詐欺認定、過失相殺否定)
東京高裁H30.5.23判決
放置自転車回収販売事業のフランチャイズ契約の勧誘が故意による詐欺に当たるとし、過失相殺を否定した事例。
(判例時報 2384号 51頁)
(コメント 愛知市民法律事務所 弁護士榊原真実)
【当事者】
Y1は、放置自転車回収販売事業を営む株式会社であり、Y2は、その代表者である。
Y3は、個人で同事業を営む者である。
Xらは、Yらとのフランチャイズ契約によって損害を被ったとして訴訟提起した原告らである。
【東京高裁判決の概要】
東京高裁は、Yらは、実際には新規加盟者が利益を得るのは困難な事業であるにもかかわらず、利益が得られるかのような勧誘を行ったものであり、詐欺行為に当たるとして、Xらが支払った加盟金等相当額の損害賠償を命じた。
また、過失相殺を認めず、損害全額の賠償を命じた。
【事案の経緯】
Y1らは、フランチャイズシステム(「パートナー制度」と称していた。)を作って、放置自転車回収販売事業への参加者を募集していた。
パートナー契約の内容は、参加者がYらに対して加盟金300万円を加盟時に支払い、システム利用料を毎月3万円程度支払う代わりに、Yらが参加者に放置自転車回収販売事業のノウハウを伝授するというものだった。
Yらは、放置自転車回収販売事業に早期に算入して、利益を得ていた。
しかし、すでに同種事業には多数の事業者が参入しており、利益を見込めるような大口顧客は既に既存業者に押さえられていた。
また、Yらは、新規加盟者らに、自分らの顧客を譲る気もなかった。
そのため、新規加盟者がパートナーになっても、容易に利益を得られるほどのノウハウもビジネスシステムの構築もない状態だった。
にもかかわらず、Yらは、Xらに対し、「放置自転車は無限にある」「ライバルのいない未開拓市場である」など、パートナー制度による放置自転車回収販売業が優れたビジネスモデルであるかのような説明を行った。
Yらと新規加盟者との間で競業関係が生じることもYらは説明せず、Xらに、商圏内においては独占的な営業ができるという錯覚に陥らせていた。
既存の加盟者の大半は採算が取れていなかったにもかかわらず、Yらはそのことを隠し、「パートナーになれば月70万円ないし100万円の売上げが得られる」「うまくいっていない人は一人もいない」などと説明して勧誘した。
Xらは、Yらの勧誘を受けて、パートナー契約をすれば安定した収入が得られると誤信し、それぞれ、加盟金名目で313万円等の支払いをした。
しかし、XらがYらから渡されたチラシを配布する等してもほとんど売上げがなかった。
XらがYらに助言を求めても、叱咤激励の域を出るものではなく、売上を上げるための具体的な助言や指導はなかった。
【原審】
第1審の東京地裁平成29年12月21日判決は、Yらの不法行為責任を認めたが、不法行為の内容を「情報提供義務違反」と位置づけ、50%の過失相殺をしていた。
【東京高裁判決 詳細】
本控訴審判決において、東京高裁は、Yらの行為について、
「Yらは、共謀の上、Xらに対して、受託詐欺又は募集詐欺ともいうべき詐欺行為を故意により実行し、加盟金等を詐取した」と認定した。
判決においては、
「Yらが考案した放置自転車回収販売業は、そもそも大半のパートナーが利益を上げることすら困難な欠陥ビジネスであり、第一審被告らにはパートナーに利益を上げさせるだけのノウハウも信用もなかったと言わざるを得ない。
『パートナーになれば月70万円から100万円程度の収入が得られる』という説明はおよそあり得ない話であったというほかない。
Yらは、パートナーの中には高額の利益を上げた者もいると主張し、これを裏付ける証拠として領収書控や通帳等を提出している。
しかしながら、Y1が大口の回収先をそのエリアのパートナーには割り振らず、特定の他のパートナーなど(勧誘の際に講師を務めるパートナーなど)に割り振るなど、不公平な利益分配を行っていたことを考慮すると、上記証拠によって上記認定を左右するには足りない。
事実を総合すると、Yらは、Xらを勧誘した時点で、すでに多数の業者が同業に参入しており、300万円内外の加盟金を支払ってパートナーとして新規加盟者になっても、自らの営業努力で回収できる自転車の台数はわずかであることを知っていたと認められる。
また、YらがXらを勧誘した時点で、それ以前に加盟したパートナーの大半はせいぜい月数万円程度の売上げしか上げられない状態であり、Yらはそのことを認識していたと認められる。
にもかかわらず、Xらに対し、「放置自転車は無限にあり、ライバルのいない未開拓市場であって、パートナーになれば月70万円ないし100万円程度の収入を得ることができる、結果の出ていないパートナーはいないなどと虚偽の説明をしてXらを勧誘した上その旨誤信させ、一人当たり300万円内外の加盟金を支払わせてこれを受領しているから、Yらの勧誘行為は、故意による詐欺として不法行為に該当するといえる。」
以上のように認定した。
そして、Yらが、「Xらは有名企業等で働くビジネスマンであるにもかかわらず、Yらに対し売上予測等の情報を求めていないなど重大な過失があった」として過失相殺を主張したのに対し、
「本件のような故意による不法行為であって犯罪成立の可能性すらあるものによる被害について、過失相殺をすることは、極力避けるべきである。」として、過失相殺を否定した。
【コメント】
そもそも利益が見込めないビジネスモデルであるにも関わらず、利益が得られるかのように偽って勧誘して契約させた行為が詐欺であると認定した上で、過失相殺も否定した判断であり、実務上の参考になると思われる。
愛知市民法律事務所 弁護士 榊原真実