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大阪高裁決定平成30年7月12日 婚姻費用算定の際、役員報酬、株式配当、不動産所得、年金収入、妻あて給与の取扱いに関する決定(いずれも夫の収入として認定)

大阪高裁決定平成30年7月12日 婚姻費用算定の際、役員報酬、株式配当、不動産所得、年金収入、妻あて給与の取扱いに関する決定(いずれも夫の収入として認定)

(事案)
妻X(抗告人)と夫Y(相手方)は、平成27年に婚姻し、平成29年ころから別居している。
両者間に子はいない。
夫Yは一部上場企業を定年退職後、平成22年前妻と離婚し、同年、中古建設機械の販売、輸出等を業とする株式会社Aを設立し、現在も経営している。
A社の社員は夫Y一人のみである。

夫Yの平成29年のA社からの役員報酬は504万円(月額42万円)であり、A社からの配当金は200万円であったが、これらがA社からいかなる名目で支払われるのかは、税理士との相談の上されたものであった。

なお、夫Yは、裁判所から求められても、平成29年分の確定申告書を提出しなかった。

課税証明書によると、夫Yの平成28年のA社からの給与収入は1128万円、公的年金約128万円、配当所得180万円、不動産所得約20万円、長期一般譲渡益176万円であり、平成27年の給与収入は1440万円、公的年金128万円であった。

妻Xは、夫Yとの同居中はA社から年額96万円の給与収入を得ていたが、平成29年に退職扱いとなった。

(論点)
1 妻Xが夫Yとの同居中にA社から得ていた給与収入は、婚姻費用の計算に当たり、夫Yの収入として考慮できるか。

→できる。(原審審判である神戸家裁伊丹支部平成30年3月23日審判において判示、本高裁決定も変更せず)

Aは実質的に相手方の一人会社であるとうかがわれるところ、夫Yは、夫Y及び妻Xに対する報酬を、自身の世帯に帰属する収入としてA社より支給させていたものと考えられる。
そうすると、妻Xに対する報酬も夫Yに対する報酬と同視するのが相当である。

2 夫Yの特有財産である不動産からの不動産所得につき、婚姻費用算定の基礎となる夫Yの収入に含めることができるか。

→できる。

Yは、Yの配当金や不動産所得に関し、「Xとの婚姻前から得ていた特有財産から生じた法定果実であり、共有財産ではない」から、婚姻費用分担額を定めるに当たって基礎とすべきYの収入を役員報酬に限るべきである旨主張する。

 しかし、Yの特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき収入とみるべきである。

 そして、Yは、婚姻後、Xに対し、Aからの給与(月額8万円)のほか、さらに、生活費として7万円を渡し(合計15万円)、その五か月後から別居三か月前までの一年四か月間、生活費を月額10万円に増額した(同18万円)。YがXにおいて食費(月2万円ないし3万円)の残りを使ったと述べていることからすると、同居中、月額約15万円がXにおいて費消し得た金額であったことになるが、この金額は、前記(4)(※不動産所得を含めて計算した婚姻費用額)の算定額に近似している。

 そうすると、同居中の双方の生活費の原資がYの役員報酬に限られていたとみることはできず、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべきYの収入を役員報酬に限るのは相当ではない。Yの上記主張は採用できない。

3 夫YがA社から株式配当として得た200万円は、夫の収入に含めることができるか。

→できる。

夫YはA社からの株式配当として200万円を得ている。
これは、税理士と相談の上、夫Yへの配当金の名目で支払われたものにすぎないのであるから、婚姻費用分担額の算定に当たっては、夫Yに対する給与収入と同視し得るとみるべきである。

(この点、原審審判は、夫Yに対する株式配当については夫婦の生活費に供されていたことを認めるに足りる資料がないとして、否定していた。)

なお、不動産所得20万円については、算定表の給与収入に換算して25万円程度と認定した。

4 夫Yの年金収入を婚姻費用算定表に当てはめる際の計算方法はどのようにすべきか。

「年金収入額÷0.8」という計算方法を採用。

年金収入は、職業費を必要としておらず、職業費の割合は、給与収入(総収入)の二割程度であるから、上記年金収入を給与収入に換算した額は、上記年金額を0.8で除した160万円となる(128万円÷0.8)。

5 まとめ

上記のように、本大阪高裁決定は、婚姻費用の分担請求にあたり、夫の収入に含めるべきか問題となる各論点について判断を示しており、実務上の参考となると言えます。

婚姻費用の支払いは、別居解消又は離婚成立まで続くものであり、長期間にわたる可能性があります。

したがって、月額1万円の差が大きな違いを生じさせることもあります。

複雑な論点を含む婚姻費用の請求に際しては、弁護士に相談し、婚姻費用調停に関しても弁護士に依頼した方が、弁護士費用を考慮してもプラスになる場合も多いといえます。

安易に婚姻費用額に同意してしまわず、まずは専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。

特に、婚姻費用支払い義務者(夫であることが多いと思いますが)が会社経営者である場合には、役員報酬、妻への給与支払い、株式配当等、どのような名目で報酬を受け取るかは経営者である夫が変更できてしまう場合があります。

そのような場合、婚姻費用を低く抑えるため、意図的に名目を変更することによって、夫の収入を低く見せるということが行われる場合もあります。

そのようなケースでは、特に弁護士にご相談されることをお勧めします。

愛知市民法律事務所弁護士 榊原真実

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