女性の法律問題

婚姻費用分担請求

●婚姻費用分担請求の相談例

「夫が1年前に自宅を出て行き、別居していますが、半年前から生活費を一切支払ってくれなくなりました。
中学生と小学生の子どもがいますが、私のパート代で3人で生活しており、大変苦しい状況です。
夫に生活費を請求したいのですが、どのようにすればいいですか。」     

●「婚姻費用の分担請求」とは

未成年の子どもや夫婦の生活費など、婚姻生活を維持するために必要な一切の費用を「婚姻費用」といいます。
別居していても、婚姻関係が続いている以上、原則として、夫には婚姻費用を分担する義務があると言えるでしょうから、夫が生活費を支払ってくれない場合には、妻から夫に対し、「婚姻費用の分担請求」を行う必要があります。

●婚姻費用の金額

法律実務や家庭裁判所においては、「婚姻費用簡易算定表」が広く使われています。
算定表により、夫婦のそれぞれの収入、未成年の子どもの人数、子どもの年齢により、大まかな婚姻費用を算出することができます。

※なお、この算定表には、金額が低くなる傾向がある等問題点が指摘されており、2016年11月に日本弁護士連合会が「新算定方式」(新算定表)を発表しています。日弁連の新算定方式についてはこちら

もっとも、子どもの養育に特別な費用が必要な場合等、算定表で算出された金額を修正すべき場合もあります。

●婚姻費用分担請求の手続き

(1)とりあえず夫婦間で話し合う際の注意点

とりあえず弁護士を立てずに夫婦間で話し合うという場合でも、なるべく早い段階で書面で請求した証拠を残しておく必要がありますのでご注意下さい。
婚姻費用が認められるのは、原則として、「請求した時」以降ですので、過去の分に遡って支払ってもらうことが困難になってしまうおそれがあります!!)
請求する際には、書面の内容についても記録が残る「内容証明郵便」を利用した方がいいですから、作成は弁護士等にご依頼された方がよいと思います。
また、知識がないまま、インターネットで「算定表」を見て金額を算出すると、あてはめるべき「年収」の額など、算定表の見方を誤ってしまうおそれもありますので、よくよく注意していただく必要があります。

(2)弁護士を介して交渉

弁護士を介して交渉をすることで、納得のいく婚姻費用の分担の合意ができる場合もあります。
当事務所では、過去の婚姻費用についても交渉により夫から一括支払いを受けられた事例もありました。
任意の交渉において合意が成立した場合には、不払いの場合の強制執行の手続きに備えて、公正証書を作成することが多いです。

(3)婚姻費用の分担請求調停の申立て

夫との任意の交渉が難しい場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。
弁護士をつけずに婚姻費用分担請求調停を申立をすることも可能ですが、申立て以前の婚姻費用をさかのぼって支払ってもらうことが難しいことが多いため、申立手続を速やかに行うことが可能な弁護士にご依頼いただくことをお勧めします。
弁護士が速やかに調停申立書の作成・申立手続きを行うことで、少しでも生活費の支払いを早く受けられるようにします。

また、弁護士は、証拠の提出、主張書面の提出、調停期日への出席、陳述など、代理人として活動します。
特に以下のような場合には弁護士を立てる必要があるでしょう。
       
・申立手続きや、期日への出席を一人で行うのは不安がある。
・特別な事情があり、算定表により算出される金額では生活が困難。
・調停の第一回期日に行ったが、納得のいかない金額で合意するように調停委員に説得された。
・夫が「住宅ローンの分を差し引いた額しか支払わない」と言っている。
・学費等の特別な出費について話し合いたい。
      

(4)婚姻費用の分担請求審判

婚姻費用の分担請求調停での話し合いがつかず、調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続きに移行し、裁判官が必要な審理を行った上、一切の事情を考慮して、婚姻費用の金額を決定します。
       
審判手続に移行した場合は、証拠の提出や、争点に関する主張を尽くす必要がありますので、弁護士を立てる必要が高いと言えます。

●住宅ローン支払い分の控除の可否

●事案
夫(40)は会社員で、私(38)はパートをしている主婦です。
長男(13)がいます。
夫が不倫相手と暮らすと言って、自宅を出て行きました。
私は今でも長男と自宅で暮らしています。
自宅は夫名義で、住宅ローン月々6万円は、今でも夫が支払っています。
夫が生活費(婚姻費用)を全く支払ってくれません。
「婚姻費用の簡易算定表」を使って婚姻費用の金額を調べたところ、
夫と私の年収だと、月8~10万円の婚姻費用をもらえるようです。
そこで、夫に、婚姻費用の支払いを求めたところ、夫からは、
「住宅ローン6万円を支払っているので、払うべき婚姻費用は2万円程度だ。2万円しか払わないぞ。」
と言われました。
夫が言うことは本当でしょうか。調停をしても勝ち目はないでしょうか。
また、調停をするとしたら、弁護士を付けた方がいいでしょうか。
     
●夫が支払っている住宅ローンの金額全額を控除しなくてはならないのか?

ご相談例においては、双方の年収を元に簡易算定表で算出すると、月8~10万円という結果になったとのことです。

夫は、「住宅ローンを6万円支払っていることから、6万円を差し引いて、残りの2万円程度が支払うべき婚姻費用だ」という主張をしているようです。

たしかに、夫の住宅ローンの支払いは、妻の住居費の支払いでもあります。

しかし、住宅ローンの支払い額全額を婚姻費用から差し引けば、妻へ支払われる婚姻費用の額が極めて少額になってしまいます。

また、そもそも、住宅ローンの支払いには、夫名義の資産形成のための支払いという側面もあります。
つまり、夫は自分の資産のための支払いとして住宅ローンを支払っているのです。

また、夫は、自身の債務の返済として住宅ローンを支払っているという側面もあります。

住宅ローン支払い分全額を婚姻費用の額から差し引くことは、妻子に対する扶養義務(生活保持義務)よりも、夫の資産形成や夫の債務返済を優先させる結果にもなってしまい、不合理です。

そのため、実務上、住宅ローンの支払い額全額を丸々婚姻費用から控除するという扱いをすることは通常ありません。


●控除額の算出方法

控除額の算出方法について、統一基準があるわけではなく、妻が自宅に住み続けるべき事情、双方の収入額、住宅ローンの支払い額など、各事案の個別的事情を総合的に考慮して、公平な結果となるように、控除額が定められます。

具体的な算出方法としては、
・住宅ローン支払い額に対する一定割合(例えば2割など)を控除する方法
・算定表が予定している妻の本来の住居関係費(例えば2万円など)を控除する方法
などが考えられます。

●婚姻費用の算出の際に住宅ローン支払い分の一部を控除する際の算定例

東京家庭裁判所平成27年8月13日婚姻費用申立事件に関する審判(判例時報2315号96頁)

夫が、妻と子3人を残して家を出て別居を開始した後も、夫は妻子が住む自宅の住宅ローンを支払い続けているというケースで、東京家庭裁判所は、

住宅ローンの支払い額が毎月約89000円であった期間については、婚姻費用分担額から3万円の控除を認め、
その後、住宅ローンの支払いを減額し、毎月45000円~50000円ほどの支払いとなった後は、婚姻費用の分担額から1万円の控除を認めています。

このように、住宅ローンの負担について、何らかの配慮をして婚姻費用から控除するという場合でも、全額を控除することはなく、本件では住宅ローン支払い額に対し2~3割程度の控除のみが認められているという点に留意が必要です。

●控除せず解決したケースも。(当事務所の解決事例)
どんなケースでも控除すべきというわけではなく、個別事情によっては、住宅ローンの支払い分を一切控除しないという結果となる場合(控除すべきでない場合)もあり得ます。

実際、当事務所で受任したある婚姻費用分担調停においては、当初は相手方である夫が住宅ローン支払い分の控除を求めていましたが、妻子が自宅に住み続けるべき事情やその他個別事情を強く主張することによって、住宅ローンの支払い分を控除せずに解決に至ったというケースもありました。

したがって、夫から「住宅ローン支払い分を控除する」と主張されたとしても、争うべきです。

●調停を申し立てるべきか?

本件では、妻が請求しても夫は任意では支払ってこないようです。

このようなケースでは、速やかに家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てるべきです。

少なくとも、夫が今主張している金額よりは多い額で決着できる可能性があります。

●弁護士を付けるべきか?

付けることをお勧めします。

本件のように、「住宅ローン支払い分の控除の可否」等、法律的論点がある場合には、調停を申し立てる段階から、弁護士を付けた方がいいでしょう。

今後、別居が長く続く場合、婚姻費用の支払い期間もかなりの年数になるでしょう。
1カ月あたりの婚姻費用の額が少しでも多くなるよう、できる限りの主張をすべきです。
(1カ月あたり2万円違えば、1年で24万円の差、3年で72万円の差になりますから、この差は大きいです。)

弁護士費用の負担については、法テラスの制度を利用して、弁護士費用を後払い・分割払いにすることができるケースも多いですので、弁護士費用の点であきらめてしまうということは非常にもったいないと思います。

●したがって、別居中の夫が婚姻費用を支払ってくれない場合には、あきらめず、なるべく早く弁護士に相談して、戦っていくことが重要です。

●ご相談は、資力基準に該当する方は法テラスの無料相談がご利用いただけます。
ぜひ、早い段階でお気軽にご相談ください。

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